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書評と感想

《 「Electrochemistry・電気化学および工業物理化学」(電気化学会)・2005年73巻10号926ページ掲載 》

書評: 光触媒標準研究法(大谷文章著・発行:東京図書(株)・定価4,410円(税込))

 近年,光触媒に関する書籍は数多く出版されているが,一般的な読者を対象とした啓蒙的なものや,すでに光触媒研究に携わっている人を対象としたトピック解説を目的としたものが多い.本書は,“はじめに”にあるように,「光触媒の研究者あるいは研究を始めようとする人にとって,本当に役に立つ本」を目指して書かれている.電気化学,触媒科学,光化学などの専門分野にまたがる基礎的知識や専門用語の定義,具体的な実験手法,評価手法が総合的にまとめられており,卒業研究や大学院の研究などで初めて光触媒の研究に取組む者にとってまたとない参考書となっている.0章では,主として学生を対象としたと思われる研究に対する心構えからノートの書き方,実際の実験実施に対する基礎事項が著者の経験を参考に述べられている.1章では,光触媒反応の概要と実際の反応実験,評価・分析,2章では,光触媒自身の構造特性・物性の分析と評価,3章では,光触媒の設計と調製,4章では,光触媒の具体的な応用例と研究発表の仕方が記されている.特徴的なのは,各項目について非常に丁寧な解説がされていることで,専門用語も他の参考書を引かなくても本書のみで一応理解できるし,さらに 1,000 件を越す脚注を参考に,さらに知識を深めることも容易である.また,本文中や特に脚注において著者のウィットに富んだユーモアがちりばめられており,読んでいて‘にやり'としてしまうことが少なくない.ひとつひとつの項目を抜き出せば,大学の学生実験のテキストにできるような細部にわたる記述は,光触媒に関する研究の初心者にとってはたいへん参考になるし,すでに研究を進めているものにとっても,“なるほど!”と思う点が数多くある.
  光触媒をはじめ,これに関連した電気化学,触媒化学などに携わる研究室にはぜひ一冊あったらいいと思うし,それ以外の研究者あるいは研究者の卵にとっても得るところが少なくない一冊である. (岐阜大学 杉浦 隆)


《 「触媒」(触媒学会)・2005年47巻5号378ページ掲載 》

図書紹介「光触媒標準研究法」 大谷文章著・東京図書・2005年1月25日発行・A5判 502頁,4200円
山下弘巳・大阪大学大学院工学研究科

  光触媒に興味があるが,どのように研究開発をすればよいのかわからない人は,ぜひこの本を読んで頂きたい.光触媒研究のノウハウ全てが詳細に記載されている.光触媒研究では何がスタンダードであるか知ることができる.
  他の専門書のように実験方法や理論をただ書き綴るのではなく,著者の考えやその考えに至るまでの試行錯誤,実験操作の留意点などが細部にわたり記述されている.その多くは著者自身が自ら実験研究を行ってきた中で感じたこと,考えたことであり,実際に実験研究を行っている筆者ならではの意見を知ることができる.これは光触媒についての知識が浅く,これから光触媒を学ぼうとする者にとって,光触媒の理解を深め,実際に行う実験研究をイメージする上で非常に役立つ.
  一方では,光触媒研究に限らず触媒全般の研究を目指す人,さらには,光触媒や触媒以外の分野の研究を進める人にとっても,大変有意義な知識と情報が盛り込まれている.筆者の研究室の運営方法まで記載されており,全くのビギナー研究者から研究グループのリーダーになる人にとっても役立つ内容となっている.
  本の構成は第0章「光触媒研究の技術−序にかえて」,第1章「光触媒研究の操作と解析」,第2章「光触媒の構造特性・物性の分析と解析」,第3章「光触媒の設計と調製」,第4章「光触媒反応系の開発と成果の発表」の5つの章からなっている.第0章から始まることからも,筆者の茶目っ気が感じられる.博学である筆者の研究哲学を垣間見ることもでき,読み物として肩をこらずに読み進めることができる.1000件を超える脚注があり,講義内容を詳細に話す生真面目な先生と話が脱線する雑談好きな先生がこの本の中には同居している.
  この本の特長は,1)読み物風になっていて内容が頭の中に入ってきやすい.2)知識の浅い人でもわかるぐらい親切丁寧に書いてある.3)著者自身の体験をもとに書いてあり,細部までわかりやすい.4)実際の実験の様子や装置を写真やマンガ図で載せているので実験研究のイメージがしやすい.5)著者や学生の失敗例などを挙げて注意点がわかりやすい.6)具体的数値が書いてあり,実験する者にとってわかりやすい.7)理論についてもわかりやすく書いてある.8)重要語句は必ず説明があり,英語も併記されている.9)著者の考え方が強く出ているため,読んでいて興味がわいてくる.10)光触媒以外のことについても詳しく書いてあり,参考になる.11)筆者の著書に,ひらがなが多い理由を知ることができ,うれしい気分になれる.
  「神はセカチュウ(世界の中心)に居られるもの」と思っていたのに,この本を読んで,「神は細部に宿る」かもしれないと思えてくるのは不思議である.筆者曰く,ノウハウと呼ばれるものは,細部がなければ意味をなさない.まさしく「光触媒標準研究法」のすべてを教えてくれる本である.光触媒研究を始める人は必ず読むべき本であり,すでに光触媒研究を始めている人や他の分野の研究をしている人にとっても,すごく役立つ本である.ぜひ,「けんきゅうあらいぐま げん」になって,こいしに「もんくあっか」と言われてみてはいかがでしょう.


《 月刊「化学」(化学同人)・2005年7号掲載 》 PDFファイル(364キロバイト)

メールインタビュー 著者に聞く
光触媒標準研究法
大谷文章教授
A5判・520頁・定価4410円(税込)・東京図書

光触媒の研究者あるいは
研究を始めようとする人にとって,
本当に役に立つ本を書いてみたい
という思いが強かった*.
脚注:そんな時間がとれるのかと
いうことは抜きにしての話.
――「はじめに」より

>脚注が非常に多いのですが,それはなぜですか?
  光触媒に関連する実験や解析法について書いてみると,いっけん些末に見えること(ディテール)が重要な鍵となっていることを再認識しました.さいしょは,それもぜんぶ本文に入れていたのですが,かっこ書きが多くなりすぎて,流れがわからなくなると思い,脚注にかえました.なんと,脚注は全部で1200以上あります.
>「本当に役に立つ本」にするためにどんな工夫をされましたか?
  実験手順や解析法の詳細をていねいに書くことを心がけました.書きおわってからわかった(ずいぶんのんきなはなし…)ことは,このようなくふう,つまりディテールを書くことによってストーリーが浮かびあがる(そんなたいそうなものではないが)ようになっています.ストーリーとは,「これまで常識と考えていたことが,じつはそうではないことが多い」ということです.「研究とは何でも疑うこと」という著者の思いがつたわれば望外のよろこびです.ただ,「何でも疑え」に対して「はい,わかりました」と言われてもこまるのですが….
>参考文献も多く紹介されていますが,これも役に立たせるための方法でしょうか?
  これまでの本や論文が「孫引き」をくりかえした結果,もとの意味が誤解されているような例をいやというほど見つけたので,この本では基本的にはできるだけ孫引きをしないようにつとめました.いずれにしても,おおもとの文献をしっかりと読むことのだいじさを再認識しました.そのあたりが読者にもつたわることを祈っています.
>表紙の「あらいぐま」がとてもかわいらしいですね.
  義兄の版画(詩は,くどうなおこさん)です.主人公であるあらいぐまの「げん」は,なんでもあらってしらべるうちに,小石をあらって「文句あっか」と言われます.この本を書いているうちに,「この測定ではこの式をつかって解析することになっている」とか「こう計算すればこれがわかることになっている」ような常識が,じつはずいぶん乱暴な仮定や近似をつかっていたりすることがわかってきました.また,これまでの専門書や論文の内容や表記,引用にたくさんのまちがいを発見しました.きっとたくさんの人が「文句あっか」とおっしゃると思いますが,そんなときは,こう言おうときめています.「ぼくはけんきゅうねっしんだ(by げん)」.

●プロフィール
大谷 文章(おおたに ぶんしょう)
北海道大学触媒化学研究センター教授,同大学院環境科学院教授(兼任).
略歴:1956年大阪府生まれ.京都大学工学部石油化学科卒業,同大学院工学研究科博士課程石油化学専攻単位取得退学.京都大学工学部などを経て現職.
著書・訳書(本書以外):『光触媒のしくみがわかる本』(技術評論社),『ボール物理化学』〔上下巻,D.W.Ball 著,化学同人(共訳)〕ほか共著本多数.


《 科学・2005年6月号掲載 》

編集部に届いた本から

研究に役立つ基礎知識と実験技術が一冊に
原理や基礎知識と著者の経験に基づく実験技術を総合的に整理.専門用語の定義やその使い方にも最新の注意を払い,理解を深めるために図版も工夫した.光触媒の研究者以外でも,なるほど!と思う話題がいっぱい.


《 化学工業日報・2005年3月22日掲載 》

巻頭には「いっしょに研究してきた、あるいは、これからいっしょに研究する仲間たちへ」と記されている。本書は光触媒の研究者あるいは研究を始めようとする人にとって、本当に役立つ本を書いてみたいという著者の強い思いが込められ、研究に役立つ基礎知識と実験技術が一冊にまとめられている。  もともと光触媒がいろいろな分野の研究室で研究がされてきたことから、研究に使われる測定や手法も多岐にわたる。「ハンドブック」と称されるような本にそれらがまとまっていれば、研究者にとって便利であるというのが著者の本書執筆の基点でもある。  このため、本書では原理や基礎知識と著者の経験に基づく実験技術を総合的に整理。専門用語の定義やその使い方にも細心の注意を払い、理解を深めるために図版も工夫されている。また、光触媒の研究者以外でも、なるほど!と思う話題も多く盛り込まれている。  「光触媒反応の操作と解析」「光触媒の構造特性・物性の分析と解析」「光触媒の設計と調整」「光触媒系の開発と成果の発表」の4章で構成。


《 「もんじろ」さん・2005年2月24日掲載 》

著書拝見しました。有難うございます。読んでから礼状を書く主義(1)なので遅くなリました。
素人には難しい本ですが(2)、研究法はすなわち実験法であることが良くわかります。これは表層的な意味ではありません。関係性を記述するだけなら洗練された数式の中の定数は最後までギリシャ文字のままで良いわけです。しかしその定数を実体として確定しようとするならば、そこに実験の精度の問題といった古典的なテーマのみならずなにを測定しているのかといった根本的な問いが研究のパラダイムを支えているのだということが読み取れます。

「神は細部に宿る」の引用もされていますが、本質に迫る細部が
ここまでマクロな手仕事に依存している事実を活写した本は見たことがありません。名著です。

ただタイトルの「標準」はいかがなものでしょうか。神が宿る細部に迫る技術が研究者(3)のかなり私的な情熱に支えられているものだとしたら
その方法は多くあるわけで、ここは開き直って光触媒極私的研究法としたら良かったのに。でも追試を拒否しているようでやっぱりまずいか。

(1)そのために礼状を書きそびれることがある。
(2)約87%はわかりません。
(3)研究者という言葉はあるが実験者という言葉はない。どっちがどっちの部分集合か考えてみると面白い。


《 日刊工業新聞・2005年2月8日掲載 》

光触媒研究分野では、最先端をいく論文や実験技術を解説した書籍は数多く出版されているにもかかわらず、研究全体の基礎的技術について書かれた本は、ほとんどない。本書は、電気化学、触媒化学、光化学といった専門分野にまたがる知識が要求される光触媒の研究者・院生向けに、基礎的な知識と著者の経験に基づく実験技術を総合的に整理して、まとめたものである。専門用語の定義やその使い方にも細心の注意を払い、理解を深めるために図版も工夫しているのが特徴。光触媒の研究者でなくても、なるほどと思う話題に加え、ウエブ上で情報を検索したり、論文を探したりするときのヒントも随所に紹介。専門書ではあるが、通読しても楽しめるように書かれているのが面白い。