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光触媒のしくみがわかる本

大谷文章(北海道大学・触媒化学研究センター・教授)
技術評論社
2003年10月25日発行(9月中旬に店頭)
本体価格1,480円

ISBN4-7741-1846-X C3043

 
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【はじめに】より

光触媒反応は、光触媒が光を吸収して生じる励起電子と正孔が起こす還元・酸化反応です。ひとことで言えばこれだけです。とはいっても実際に研究をはじめてみると、そんな単純ではありませんでした。私が、化学の中のまったく違う分野からこの光触媒の研究にとびこんだのが1981年のことです。最初は、来る日も来る日も酸化チタンの粉末、白金黒と酸化ルテニウムをメノウ乳鉢ですり混ぜて光触媒を調製し、水銀ランプで光をあて、発生する水素をガスクロマトグラフで定量していました。今から考えるとそれほど目新しい化学反応ではないのですが、ともかく光を当てると水素が発生するということが新鮮でした。研究室で作った酸化チタンについて調べていくうちに、アナタースとルチルという2つの結晶型と活性の間に関係がありそうだ、表面積が大きいほど速い反応と逆に小さいほど速い反応がありそうだ、有機合成にも使えそうだ、という風にいろいろなことがわかってきました。

それからもう20年以上もたちました。ここ数年くらいの間に光触媒に関する学術論文が爆発的に増えています。私たちの研究室では、主要な学術雑誌について光触媒に関連する論文をチェックしていますが、1週間に10件以上ということもしょっちゅうです。ただ残念なこ

 
とに、「光触媒を作った。結晶系や表面積などの物性を測定した。何かの反応の活性を求めた」で終わっている論文がほとんどです。そこで述べられていることは、結晶型や表面積の違いが与える影響など、昔からの議論の繰り返しで、ほとんど変わっていません。新しく得られた研究の結果が価値のあるものになるためには、どうしてその結果が得られのかという原因とその結果が示す意味をはっきりとさせる必要があります。光触媒は浄化作用などの効果だけが強調されることが多いのですが、化学反応であることは間違いなく、その原理や反応の機構は化学の立場から考えることができます。これまでの研究の全体をながめて光触媒の化学をきちんと考えてみたい、と思っていました。大学院で光触媒の講義をしていますが、他の分野と違って教科書になるものがありません。光触媒に関連する書籍は、専門家むけのものか、具体的な応用例を中心としたもののいずれかでした。イラスト・図解シリーズに光触媒の解説書を書くように依頼をうけたとき、きちんとした化学の解説、できれば化学の基礎から説きおこした教科書になるようなものが書ければいいな、と思ってお引きうけしました。書き始めてみると、光触媒の基礎になっているのは化学の中のほとんど全部の領域にまたがっていることがよくわかりました。光触媒がわかれば化学がわかる、そして逆に化学がわかれば光触媒がわかる、ということです。